お菓子の本
戦前生まれの父の形見分けでもらった、お菓子の本があります。
幼い頃から、焼きリンゴやパウンドケーキ、ミルクシェーキなど、小まめに作ってくれましたが、バイブルとして使っていたようです。
昭和31年初版で定価200円の本で和洋中韓のお菓子が紹介されています。
太平洋戦争が終わって10年余り。今では簡単に手に入りそうなメニューを、家庭で手作りできる小さな贅沢や幸せ、ワクワク感が溢れています。
“はじめに”には「至らぬところ、わかりにくいところがありましたら、出版部までお問い合わせください」、「日本にはぜんたい、お菓子屋が多すぎるのです。お菓子は、うちで作るものです」と書かれていて、時代を感じさせます。
“ご指導いただいた先生方”には、お店の名前の他に、「〇〇夫人」とご主人の名前まで。
市販のホットケーキの素の値段も紹介されていますが、「64人前128枚分500円」と、その量も多さに、核家族化する前やお誕生日会など家庭で集まって食事をする習慣ならではだと微笑ましくなります。
そのうえ、クリームやドーナツの絞り出し袋の縫い方まで丁寧に書かれていて、ビニル袋の端を切って…、ではない時間の流れ方の違いを感じます。
「白餡入りクッキース(クッキーのこと)」、「玉子コーヒー」なるレシピも。
おしゃれな発想だな、と思うのは、お誕生日ケーキのデコレーションが時計の針になっていて、年齢を長針と短針で示しているデザイン。数字は今でいう「小枝」のようなチョコスティックでローマ数字で表現しています。
そしてなんと「タピオカクリーム」なるものまで!
ヨーグルトや練乳や電気オーブンやオーブントースターなど、今では当たり前にあるものもなかった時代なんだろうと思います。
父が若い頃に、キラキラした目で開いたように、私もこの本を開くときは、未だに目がキラキラします。